迄7手
塚田九段「鋭角的なものを持っている。良形の秀作」
二上六段(当時)「近代(詰)将棋の条件は、適当なやさしさと適当なまぎれであると思う。本題はこの条件にかなっていると思う。使用手筋も2二金から2三金と捨てるあたり。スマートな感じがする。なお、3四金を除き4一馬を1四馬としても良さそうに思われる」
2二金~2三金は当時としては新鮮味ある好手筋。これ以後の短篇作にこの手筋を使ったものがいくつか現われている。
4一馬を1四馬として3四金をはぶくという二上六段の言はさすがに慧眼である。
作者は昭和11年6月16日生まれ。当時高校二年という若さでの受賞。
作者「苦心しただけに塚田賞の選に入ったと聞いて、ほんとうにうれしく思います」と喜びを語っている。
迄19手
塚田九段「形の整っている作品で、同時にまぎれの多きを求めることはむずかしいのだが、この作はそれをなしとげている。手順も悪くない」
二上六段「本作もやはり近代的感覚の詰将棋であろう。塚田賞となったのも当然と思われる。手順も流麗である。しかし私の好みとしては中篇物は今少しの難解さが欲しいと思う」
この作品も短篇同様、応用範囲の広い絶妙の手筋が出てくる。9手目3二桂成から4二角成 2一玉 3一馬の手順がそれで、何年か後の塚田賞にこの手筋を取り入れた作品が出てくるのである。
作者は昭和8年生まれで当時20才という若さ。「塚田賞に私のが選ばれたとのこと。意外なのに驚きました」と語っている。
迄39手
塚田九段「二枚の馬の動きや玉方金を桂すてで動かすなど、手順のアヤのむずかしさがこの作の興味である。攻防の応接が見事で最後までひきしまっている。7三と8三の歩がなければ一層すぐれた作品であった」
塚田九段講評のように、三桂で金の移動をはかる細かい味がこの作品の骨子である。最後は3六の桂までさばいて見事な詰上り。
作者「まことに恥かしい作品ですが、これを機会に今後一層努力します」作者は昭和7年生まれ。第一期の受賞者三人とも新人。現在どうしておられるか、消息を知りたいものである。
候補に上った作家で現在も活躍されていた方は金田秀信、北原義治、野口益雄らわずか数人である。
迄15手
塚田九段「3四桂、1三金の手筋の新らしさをとる。形の良い点も入賞の大きな理由。惜しむらくは4二竜以下が既成手筋である」
新人賞は文字通り新しい作家を発掘、奨励の意味でもうけられたもの。近年、この賞は消滅してしまったかに見えるが、該当者があれば、選定されるハズ。
作者「私の作品が新人賞とは、うれしくて全く夢のようです」
作者椿春男はペンネーム。本名は関英雄。指将棋アマ五段の強豪である
迄17手
塚田九段「”二上詰将棋”は無条件でよい作品である。曲詰(あぶりだし)にはめずらしく手順も悪くない。それにもまして柏川氏のたゆまぬ努力には感心させられる」
迄13手
塚田九段評「形がすっきりしておりまぎれもある。初手4八飛としたい所を3八飛とつけて打ち1八飛とすてるネライが鋭い。最後までゆるみのない手順」
この頃の短篇作家ではこの人の他に金田秀信、柏川悦夫、植田尚宏の三人が特に活躍していた。
本作は入玉図ながら簡素な形をしているので好感の持てる作品だ。手順は原形のまま玉を1九へさそうところ、なかなか味がある。4五香も最善の配置であろう。
迄59手
塚田九段評「手順がごたごたしていない、やさしいところに好感が持てる。
7七金とすてて7九飛を作るのがおもしろいところ。二枚飛車で追うのは伊藤看寿の作にもあるが、7九飛を作る構想はやき直しとはいえない。それと玉方4七桂の中合、その桂を4四に使う所もおもしろい。盤面の駒もあらかたさばけるし、傑作といってよいでしょう。」
いよいよ大家山田修司の登場である。山田は柏川悦夫と共に北海道が生んだ、戦後詰棋界のスター。柏川が短・中篇作家とするなら山田は中・長篇作家。
塚田九段の評にあるように二枚飛車で追う筋は看寿の作にある。右図がそれだが、本局は序盤軽い伏線を取り入れ、後半二枚飛車で追撃したあと「4七桂中合」という予想外の応接があり、ひとつ立派な作品として昇華されている。
昭和三十年前後の長篇作家をあげるとすれば山田の他に黒川一郎、巨椋鴻之介、駒場和男などがいる。おっともう一人「幻の作家」といわれた奥薗幸雄(八七三手の最長手数作品の記録を持つ)の名も忘れてはならない。
迄31手
手順なし
迄13手
塚田九段評「桂香のある形が私の好きな形。初手から3二飛成の銀を得るまでは手順だが、2二桂合と、2一竜と桂をとるのがおもしろい今までにない筋で、その新しい所を採る」
6手目、桂合以外では1三金 同玉 1四銀 1二玉 2三銀成まで。
2一竜(7手目)から3一金と打つあたりがいかにもプロ好みの手順。すて駒らしき手がひとつもないが、筋の目新しさが評価されたものとみている。
迄15手
本作はいわゆる「二歩禁」をテーマ(と)した作品。3手目、2五桂と打って、1二歩を消し、再び玉を1三へ持ってくる。持駒に歩がないところが本作のポイントで、巧みな作り方といえる。
迄33手
塚田九段評「本局は形のわりに、よく見るとゴテゴテしてないのと、歩をと金にする手順がちょっと作りがたい点、それに飛の上下は力強い」
本作品は17回の王手のうち竜の王手が10回という珍らしい問題。その間に桂すて、歩のナラズなど当時としてはシャレたセンスを持った作品に仕上っている。
迄43手
塚田九段評「本局は蒼猿と表題があった、銀の動きが実におもしろい。最後に竜で追う手順と銀不成も画龍点睛の一手で、ひきしめている。ただ、4一飛と5一桂が詰手順を暗示しているのではないか」
趣向詰の大家、黒川一郎の受賞である。趣向といえば、作者の他に山田修司、大塚敏男などが有名で当時の詰棋界の三羽ガラス。
迄11手
田辺国夫は現在でも活躍中の作家で、短中篇物が得意。本作品は作者の短篇中でも巧みなテクニックを発揮されたもので、特に7三桂ハネは見事な一手。まぎれの豊富なこともこの作品の価値を高めている。
作者「光栄の至りだが今後の駄作の発表に気がひける。できるだけ精進したい」
迄17手
塚田九段評「中篇作は廬作と金田作が両横綱で、随分考えたが、どちらが優っているか判定できない。廬作は何だか専門棋士の作みたいだし、力強さがある。金田作は形が良いし、手数に比していろいろなまぎれ手がある。選定に迷ったので特に二本立の受賞とした」
作者は現在「新宿将棋センター」を経営しておられるが、詰将棋作家としても一流でとくに短篇物を作らせるとその名手ぶりを発揮する。本局は作者の数少ない中篇物の一作で、初手3四金から3五角の構想はすばらしい。
2手目、2五玉は2三竜 同角 2四飛 1六玉 2七金まで。4一角は諸々の余詰を消している巧妙な配置である。
作者「久しぶりに入選の喜びというようなものを感じました」
迄21手
作者は本名須釜喜一郎。35才(当時) この人の作品は受賞作以外あまり知られていないようで、筆者も殆ど記憶がない。
消息通の話によると、現在東京の「大塚将棋センター」へときたま将棋を指しに来るとのことだがそれ以上は分からない。
本作品、塚田九段の評にもあるように仲々力感あふれる構成ぶりで、2手目の9四金合(、)次の7三角から8四角成など、実戦の方もかなり指すのではないかと思われる。中盤やや中だるみの感はあるが、終盤9六銀のあたりから再び雰囲気が盛り上がってくるという異色の作品に仕上っている。
2手目飛金以外の合駒では7三角 8五玉 8四竜 7六玉 6六金 7七玉 8八竜まで。
飛合は同竜 同玉 9三飛 8五玉 9四角 8四玉 8三飛成 9五玉 8五竜まで(。)
作者「塚田賞に入賞とは全く意外と申す他はありません。初入選でこの栄与(ママ)は恐縮の至りです」
迄111手
塚田九段評「長篇は選ぶことをしなかった。植田作の煙詰が完全作である限り文句なしに該当する。このような作を完成したことに敬意を表する」
煙詰は今でこそ百局以上発表されているが当時の詰棋界では最も希少価値ある作品で、この受賞作は第三作目と記憶している。一作目天才伊藤看寿の傑作。第二作は黒川一郎の落花で短篇作家と自他ともに認める作者が、いきなり煙長篇を発表するとは、当時話題になったものだ。
本局、自陣成駒を度外視してみると、かなり巧妙に作られている。いわゆる煙詰の「公式手順」を使用していない、オリジナルな組み立てになっている点、高く評価していい作品である。
作者「苦心作だけに入賞の喜びは格別です。今後共一層精進したく思います」
迄13手
塚田九段評「実戦型がまずよい。最初平凡に追っていき、だんだんすて駒が出てくる。 1二金ですぐ詰みそうにみえて詰まないのも新鮮である」
作者は今も活躍しておられる、実戦派の雄で、その力強い作風はユニークである。
1二金すての筋は塚田九段の作品にもみられるが、そのニユアンスはヤヤ異る。
作者「一度は受賞の喜びを味わいたいと思っておりましたが、又格別な味がするものです。今後共私の力の範囲において新から新へと進むつもりです。本作、豪快な手順は見当りませんが、形のよさと共に駒さばきも軽くあるいはとも思っていました」
迄11手
塚田九段評「2七香と上がる手が心地よい新鮮さを持っている」
この2七香が当時話題を呼んだ一手。2六香などとすると、1七玉から2六玉とかわされる。作者は短篇作家としてすばらしいセンスの持ち主で筆者が最も高く評価して(いる)作家の一人。参考まで左図も考えられる。これは筆者の好みで左図(次頁)をこしらえてみただけであるが、とにかく塚田(賞)短篇賞の中では上位に入る作品である。
作者「入賞の報に接しあまりの嬉しさに胸おどるものを感じました。玉を2七へさそうまでのアヤ、手順の妙は自分として今までを通じて最高の作と思います」
迄11手
手順なし
迄13手
塚田九段評「不成を多くとり入れ、しかも曲詰(エの字)としてはしっかりした構成。
4七桂の防ぎもよく、すぐ3八同飛と取らぬところは巧妙」
黒柳徹和とは誰あろう、北原義治のペンネーム。名前を変えたとたん受賞とは皮肉。作者の詰棋テクニックを見事さを表わした作品である。
作者「曲詰(あぶり出し)には不成作品が少い、と思いついてフト作ってみたものです。妙手らしい手は一つもありませんが、玉方3回不成、不動玉、と重なって、曲詰として異色ではないでしょうか?」
迄19手
塚田九段評「3八桂に3五玉と逃げる変化もおもしろく、作意の2四玉を玉に取らすネライは一応成功しており詰将棋らしい詰将棋。軽い。文句なし」
3八桂に3五玉なら2五飛 3六玉 4五飛右 1四銀 4八桂まで。また、1六玉なら2七角 1五玉 1六飛 2四玉 2五歩 3三玉 3二角成 同玉 5四玉 2三玉 1五桂 1四玉 3二角成以下。
右のややこしい変化をヨミ切ってしまえばあとは軽快な手順でさすが巧まい。
作者「私の好みの作品だが、入賞するとなどとは思っていなかった。塚田賞は私達のユメですが、このユメがかなえられてこんな嬉しいことはありません」
迄11手
塚田九段評「本作はまぎれはあり、型もよし、力強いのでこれをとった。手順などは玄人っぽい」
作者「主眼手の2三馬は、前半に捨駒がないため、きわ立った好手になっていると思います。好きな作家は柏川悦夫、金田秀信、植田尚宏の各氏。低棋力のためと、時間の問題で長篇は敬遠してましたが、受賞を機会に取組んでみたく思います」
本局はまず実戦型なのがよい。塚田九段が玄人っぽい手順といわれたのは、初手5四角成をいうのだろうか。これが3手目の3一銀から始めたのなら作品の質は低下したものと思われる。
ネライの2四桂から2三馬の飛び込みは素晴らしい手で、応用の広い高級手筋である。
迄49手
塚田九段「角を九回不成として働かすところが優れている。終りがあっけないが、終始角不成を続けるのは大したものである」
作者「夢ではないかと驚きました。苦心しただけに嬉しさは格別です。作品自評――手順は平易だが角の双方不成9回とあいまって3五歩打ちを可能にする2七へ再度の作すては妙手だと自負している。好きな作家――北原義治、黒川一郎、植田尚宏」
角不成9回は当時の新記録。大駒不成の作品は今でこそ珍らしくもないが、当時はその希少価値があった時代だから、筆者などは本作品をみたときは驚いたものである。不成のほかに3九飛と4九飛を消し、打ち歩詰めを解消する構想を取り入れてあるのが、この作品の優れたところだ。ちょっと面白いことに気がついたのだが、最終局面で詰め方7一と金がないと以下7二玉 6三歩成の面白い手順がある。塚田九段が「終りがあっけない」といわれたのも、この辺のところに気がついてのことと思う。一工夫の余地があり惜しい感じがする。
変化 4手目、1六玉なら2七金 同角 同角 2五玉 2六銀上まで。
また1八角成なら2六銀引 1六玉 1七歩 同馬 同銀 同玉 1九飛まで。
12手目の不成を成ると、1七歩 同馬 2五角 同歩 同銀まで。
41手目、6二角不成とする所、解答者の十二、三名が「成」と誤った。すなわち、6二角成は7三桂合 同馬 9三玉で打ち歩詰めの局面となる。と、当時の駒形駒之介の解説に記されている。
迄15手
塚田九段「一風変わっていて面白く、型も簡素であるのもいい。短篇賞を石阪氏にゆずったので新人賞をおくる」
5手目7七銀から8八銀のさばきが面白い。最後は8七銀もさばいてキレイな詰め上り。このような形からよくぞ巧い手順が現われたものだ。
6手目8九玉は7八銀 9九玉 6九飛 9八玉 4三馬 9七玉 8七馬まで。
迄15手
塚田九段「3七角から3八金と竜を手元に呼んでおいての7三角は新鮮味ある手順で、また、いろいろとまぎれもあり、他とくらべ文句なく第一位に推す」
この作品をみたときに非常に解きにくかったことを憶えている。九段の言われた「まぎれ」がかなりあり、それがいい所までいく。
初手から、7三角、3八金など。
7三角は4六歩合 3七角 同竜 3八金 1九玉 3七桂 2九角合 同竜 同玉 3九飛 1八玉で不詰。また初手3八金では、1九玉 3七角 2八歩合とされてこれまた不詰。
作意の3七角。3八金。7三角という三手一組の手順はまことに難解かつ巧妙。他の候補作をふり切って独走。全員好評のうちに決定というのもうなずける。2四と金の配置は11手目2八飛のところで2三飛とする別手順を消したもの。このと金がいわくありげで、作品をより難解なものにしている。
迄19手
塚田九段「これだけの力作を創った人が初入選とは……。そのねらいは終始ひきしまっており、その手順の妙はまさに驚くべきもの。新人の傑作」
玉方の応接が作品の主眼になるというのは塚田賞では目新しいことで、本局の2五飛合(8手目)が、中心になる一手。手順は最初から緊張を要するもので、収束の2七桂から2四角すてはすばらしいタッチである。
なお、前期短篇賞を取った石阪久吉作の中篇も好手順で、本作と最後まで争ったが、わずかの差で次点。惜しくも連続受賞を逃がした。
参考までに図と手順を掲げておく。
迄17手
手順なし
迄53手
塚田九段「一言にしていえば巧妙という。主題は角の反復打ち合であろう。とりわけ5五角と打って4四角と収束に味をもたせたあたりは巧い。また終りに6三銀不成とするなども芸の細かいところを見せている」
作者「本局、着想――完成まで約二年余を費しました。特に後半に苦心し、初期のねらい、”全体を重厚に”をガラリと変えてグッと軽くしました。これが成功したか」
北原義治の作品をみていつも感ずることだが、詰将棋を実に丹念に創るということである。完成まで二年余という言葉に作者の詰将棋に対する並々ならぬ姿勢がうかがえる。発表時の図では玉方3七と金があり、詰め方5四と金が銀になっていたが、作者からの連絡で図のように修正。成程こちらの方が優っているのは明白である。